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広島地方裁判所 昭和44年(行ウ)13号 判決

原告 中村恕定

被告 広島国税局長

訴訟代理人 武田正彦 外五名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

被告が原告に対し昭和四三年一〇月二一日付納付通知書をもつてなした訴外三和鋼機株式会社(以下訴外会社という)に対する法人税(昭和三七年七月三〇日納期限)、加算税、旧利子税、延滞税につき金五七万円の第二次納税義務を課する告知処分(但し異議申立に対する決定により金四〇万円に変更)を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

主文同旨

第二、当事者の主張

原告(請求の原因)

一、(1) 被告は、原告に対し、昭和四三年一〇月二一日付納付通知書をもつて、訴外会社の昭和三七年度分(課税元年度昭和三六年度)法人税金四〇万三、一九〇円、加算税金一〇万〇、七五〇円、旧利子税金四万七、八七〇円合計金五五万一、八一〇円及び延滞税につき原告が納付すべき金額の限度額を金五七万円として第二次納税義務を課する告知処分をなした。

(2)  原告は昭和四三年一一月二〇日被告に対し右処分につき異議申立をしたところ、被告は昭和四四年二月一四日右処分の一部を取消し、原告が第二次納税義務を負う限度額を金四〇万円とする旨の決定をした。

(3)  しかるに原告は、右訴外会社の課税につき第二次納税義務を負う理由はなく、被告が原告に対してなした前記告知処分は違法であるからその取消を求める。

二、仮に第二次納税義務を負うとしても、主たる納税義務者たる訴外会社に対する法定納期限は昭和三六年二月二八日であり、原告に対する本件第二次納税義務告知の日は昭和四三年一〇月二一日であつて、主たる納税義務の法定納期限より既に五年以上経過しているから、第二次納税義務は時効により消滅しているものであつて、被告のなした告知処分は違法であるから取消を求める。

被告の主張

(1)  請求原因第一、第二項の事実はすべて認める。

訴外会社は昭和四三年一〇月二一日当時昭和三七年度分滞納税金が金八六万二、九一〇円にのぼつていたが滞納処分の対象となり得る財産は皆無の状態で滞納処分を執行することはできず徴収不足は明らかな状態であつた。

ところが訴外会社は諸負債の返済のためその所有不動産(広島県安芸郡瀬野川町大字中野字高部四、二三八番四、宅地一、二三三坪二五-以下本件土地という)を昭和三六年二月二七日訴外興栄物産株式会社に金六〇〇万円で売却した際、右代金のうち金一七一万円を昭和三六年三月頃、訴外会社の取締役である訴外村上和夫、訴外厚井憲策、及び原告の三名に各金五七万円づつ分配し、うち各金四〇万円については訴外会社からの右三名に対する無償譲渡であると認められ、かつ訴外会社は旧法人税法(昭和二三年法律第二八号)七条の二に定める同族会社であり原告は同族会社を判定する基礎となつた株主であるから訴外会社の特殊関係者として受けた利益の限度である金四〇万円につき原告に第二次納税義務を課したものであつて、本件処分はもとより適法である。

(2)  請求原因第四項の事実中法定納期限の日付を認めその余の主張は争う。

第二次納税義務は主たる納税者の納税義務に附従する義務であり、主たる納税義務が存する限り第二次納税義務が独立して時効にかかることはなく、訴外会社に対しては主たる納税義務につき昭和三九年一〇月七日広島東税務署長より督促状により督促し、その督促期限たる同年一〇月一七日まで時効中断事由が継続しており、訴外会社の主たる納税義務は本件第二次納税義務告知処分時である昭和四三年一〇月二一日にはいまだ督促期限より五年内にあつて時効完成はしていないものである。従つてそれに附従する本件第二次納税義務も存続している。

被告の主張に対する原告の答弁

被告主張の事実のうち訴外会社の滞納税金額は不知。訴外会社が本件土地を売却した事実は認める。その代金額は不知。又その代金額のうちから贈与をうけたとの事実、訴外会社が同族会社であること、及び原告が訴外会社の株主であるとの事実は否認する。

第三、証拠関係〈省略〉

理由

一、被告が原告に対し昭和四三年一〇月二一日付納付通知書をもつて訴外会社の昭和三七年度分法人税(課税元年度昭和三六年度)につき原告が納付すべき金額の限度額を金五七万円とする第二次納税義務を課する告知処分をなし、右処分は原告の異議申立により昭和四四年二月一四日一部取消され、限度額を金四〇万円と変更されたことは当事者間に争いがない。

二、〈証拠省略〉によれば昭和四三年一〇月二一日当時訴外会社の負担すべき、法定納期限を昭和三六年二月二八日とする滞納税額は合計金八六万二、九一〇円になつていたところ、訴外会社は事実上の倒産状態で徴収不足は明らかな状態であつたことが認められ、他にこれに反する証拠はない。

三、そこで原告が訴外会社の右滞納税金につき第二次納税義務を負担すべきか否かにつき検討する。

(一)  〈証拠省略〉を総合すると訴外会社は昭和三六年二月ごろ本件土地を所有するほか殆んど無資産状態であり、かつ事業活動も行なつていなかつたものであるが、同年二月中旬本件土地は訴外会社の債権者である中央融資株式会社より貸金を弁済しなければ停止条件付代物弁済の権利を行使すると警告されたため、役員間で種々金策の方法を講じた結果、当時取締役であつた、村上和夫、同厚井憲策及び原告が、訴外会社の唯一の資産である本件土地を他に売却し、その代金をもつて前記借入金を弁済することになつた。そこで当時不動産取引業者でもあつた村上和夫が中心となり、売却先をさがすことにし、同年二月一八日訴外野崎マツヨに代金二五〇万円で売却する旨の契約書を作成したが、これは形式的なものであつて、実際には野崎マツヨ及び村上が共同で右金員を出捐し、右金員を以て当面の訴外会社の前記借入金を含むすべての債務を完済したのち、二日後の同月二〇日さらに当初より予定していた転売先である訴外興栄物産株式会社に代金六〇〇万円で売却した。これにより結局訴外会社に金三五〇万円の利益を取得せしめたわけであるが、そのうちから経費等を差引き、うち金一二〇万円を同月二二日村上、厚井、原告の三名で金四〇万円づつ分配した事実が認められる。

右認定に反する部分の原告本人尋問の結果は、〈証拠省略〉に照らし措信し難く、他に前記認定を覆えすに足る証拠は存しない。

(二)  さらに同年二月二二日原告が受取つたと認められる金四〇万円の趣旨が本件土地の売却によつて訴外会社に生じた利益の分配であるか、訴外会社よりの借入金であるかにつき検討する。

〈証拠省略〉には、右金四〇万円は共同事業運営費として借用した旨記載されているのであるが、一方前記(一)掲記の各証拠によれば借用といつても弁済期、利息、担保等の約定はまつたくなされておらず、現在に至るも分配をうけた原告ら三名が弁済した事実はないこと、分配金の出所についても原告らは訴外会社が本件土地を転売して得た利益から出ていることを知つていたものとうかがわれ、原告らが取締役をしており、かつ倒産状態になつた訴外会社への返済をまつたく考慮していた形跡はないこと、又前記乙第五号証の借用する旨の記載も金一二〇万円を持参した前記村上の指示ではなく、同じく金四〇万円を受け取つた前記厚井の強いすすめにより原告がやむを得ず記載したことがそれぞれ認められ、以上の事実を総合すると前記借用するとの記載にもかかわらず金四〇万円は借用の趣旨ではなく前記村上、厚井、原告ら三名が訴外会社から無償で配分をうけたものと認めるのが相当である。

右認定に反する原告本人尋問の結果は〈証拠省略〉に照らし措信できず、他に前記認定を覆えすに足る証拠はない。

(三)  以上の事実を総合すると、訴外会社の唯一の資産であつた本件土地の売得金一二〇万円のうち金四〇万円の分配を受けた原告は、国税徴収法三九条により、訴外会社の昭和三七年度の滞納税金につき第二次納税義務を負担することは明らかであり、さらに〈証拠省略〉によれば訴外会社が旧法人税法(昭和二二年法律第二八号)七条の二に定める同族会社であること、原告が同族の判定の基礎となる株主であつたことがそれぞれ認められるから国税徴収法施行令一三条一項五号、国税徴収法三九条により、特殊関係者として原告の受け取つた前記金四〇万円の利益の範囲内で第二次納税義務を負担すべきものとする、一部取消された後の原処分は正当であつて、なんら違法の点はない。

四、 なお、第二次納税義務は主たる納税義務とは別個独立の債務であるから、訴外会社に対する決定納期限たる昭和三六年二月二八日より五年の経過で第二次納税義務は時効により消滅しているとみるべきであるとの主張について判断する。

いわゆる財産の譲受人の第二次納税義務は、形式的には第三者に財産が帰属する場合でも、実質的にはその財産は納税者のものであると認めても公平を失しない場合に、その第三者に補充的に納税義務を負担せしめるものであつて、国税徴収法三九条所定の要件を備えた第三者は、本来ならば納税者に対する徴収処分によつて差押を受くべきであつた財産を譲り受けたものとしていわば納税負担付財産の譲受人とも言うべく、形式的には納付通知によつて本来の納税義務とは別個に課せられる義務ではあるが、その義務の本質は主たる納税義務を負担する納税者に対する徴収処分の延長あるいは一段階としてとらえるべきものであるから、第二次納税義務は主たる納税義務と運命をともにするものと考えるのが相当である。

従つて主たる納税義務が存続する限り、第二次納税義務がこれと別個に独立して時効の進行を始めることはないものと解すべきである。そこで本件につきこれをみるに〈証拠省略〉によれば、訴外会社に対す主たる納税義務は昭和三九年一〇月七日に督促状により同月一七日まで時効中断され同日より五年以内である昭和四三年一〇月二一日に原告に対する本件第二次納税義務告知処分がなされたことが明らかであるから、主たる納税義務の法定納期限を基準にして、それから五年経過することにより第二次納税義務が時効により消滅するという原告の主張は失当であつて採用できない。

五、よつて原告の本訴請求はいずれの点からするも理由がないのでこれを棄却することとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 加藤宏 安原浩 岡田勝一郎)

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